[アーカイブ] 器用貧乏と不器用金持ち(河野土洋)  

 アイフェイズ社元取締役河野土洋氏は創立以来のメンバーで,作曲家でサウンド担当でした.一文が残っていましたので,再掲載いたします.

 世の中には器用な人と不器用な人がいます。
ai-phaseにもずいぶん器用なメンバーがそろっていまして、何でも本当に作ってしまうから驚きます。
この「器用か不器用か」という話になると、「器用じゃない人」はちょっと引いてしまう。でも、「不器用」ということばがあるということは、そういう人が大勢いてその集約的呼称として皆が認知しているのですから、何も引っ込むことは無いと思もいます。
器用な人は理系に進む傾向にあり、不器用な人は文系に進む?・・・。この理系と文系という「分類の仕方」もずいぶん大雑把なのに、今だに使われているということは、それほど見当外れでもないのでしょう。
 ところで、「器用貧乏」という慣用句がありますが、器用だから貧乏なのか、貧乏だから器用になるのか、ずーっと疑問でした。というより、戦後の貧しい時代に育った私たちは、家の手伝いなど何でもやらされたから、「貧乏だったから器用になった」と、迷うことなく思いこんできました。ところが改めて「広辞苑」で調べてみますと、「なまじ器用なために、あれこれと気が多く、また都合よく使われて大成しないこと」と書いてあります。・・・「器用だから貧乏になる」というのです。なるほど、世の中の長者番付を見るまでも無く、どうも技術屋とか研究者で大金持ち・・・という話はあまり聞きません。
 まぁ、でも最近「青色ダイオード」の裁判で、研究者に何百億円も支払えという判決が出され話題になっていますね。深海魚が急に陸に上げられた・・・と言うような今までの研究者業界では考えても見なかったような驚いたニュースです。それまでに与えられて来た研究の環境や資金、それを商品化して販売ルートに載せるために、会社は全社を挙げてリスクを背負い、研究を応援して来てくれた筈でしょうに・・・。 そのブンを差し引いても有り余る利益を上げたというかもしれませんが、それまで苦労を共にしてきた仲間と分け合う・・・ということにはならなかったのでしょうかね?・・・。 他の大勢の社員とそのご家族や友人も含めると、何倍もの人たちから「恨みを買う」ことになったとしてもても仕方ないでしょうが、もう少し予めの話し合いや、社員規約の改定が出来なかったのでしょうか?
 翻って、じゃぁ「器用貧乏」と言うことがあるなら、「不器用金持ち」っていうのは無いのでしょうか。
「不器用なひと」は自分で何かを作るのが不得手だから、他人(ひと)が作ったものを買い上げて、これを第三者に売って利益を上げようと考えるのはごく自然な成り行きです。幸か不幸か、器用な「もの作り屋さん」は、「対物」は得意でも、「対人」となるとどうも苦手な人が多い・・・。神様はここでも実に良いバランスで人を作ったものですねぇ。
「他人のふんどしで相撲をとる」というのが有って、これは悪いことの表現に思われがちですが、無口で口下手な「もの作り屋さん」が、どんなに良いものを作ったとしても、これを上手く売って広めてくれる人がいなければ一個も売れません。今では世界の企業となった「ソニー」も、盛田さんという商売の天才が一翼を担ったからこの大発展が望めた訳で、ここには大いに学ぶところがあります。大体「もの作り屋」は自分で作ったものを自分で売りたがります。「すごいね」「良いもの作ったね!」って誉められる喜びがあるからです。ところがちょっと「ケチ」を付けられると、もうえらくプライドに傷が付いて、酷く落ち込んでしまう傾向があります。
 でもそんな時、間にセールスマンが入ることによって、その「ケチ」を「美点、特徴」にまで言ってくれることがあります。「もの売り屋」さんは「後ろ」が有りません(自分で作ったり直したりできません)から、何としてでもこれをお客さんに買ってもらわなければ、明日のご飯が食べられないのです。「わが身と妻子を路頭に迷わす」事になってしまうかもしれません。
どうもその商品を作った「もの作り屋」さんですと、お客さんに「ケチ」を付けられると、「いや、ここはこうだからこうです・・・」と、どんどん「言い訳の深み」にはまり込んで行くことが心配されます。もちろん、トラックの車軸が折れてしまうというような、人身に関わる重大欠陥では話にもなりませんが・・・。
 そんな中、「もの売り屋」さんはその商品を売った当然の見返りとしてシッカリ「利益」を得ることを忘れません。そしてそこにいろいろな「ルール」を持ち込んだり、新たに作ったりして確固たる商売のシステムを作り上げて行きます。そうした「利益」のことを言う言葉がいろいろあって、なんとか不当に利益を上げているのではない・・・と言おうとしている工夫や事情が伺われていて面白いです。
 先ずは、気を遣いながらの「手数料」というのから始まって、「利得」、「取り分」、「得分」、「マネージ料」、「利潤」、「諸費用」、「諸経費」、「必要経費」、解釈を広げて「連絡費」、次第に開き直って、「もうけ」、「うわまえ(上前)」、「リベート」、「割り戻し」、「バックマージン」、「キックバック」、「上乗せ」、「利ざや」、「配当」、「配分」、「分け前」、(他にも、うっかり出来ない)「保証金」、「見せ金」、「お礼」、「礼金」、「敷金」、「報償」など、ここには正しい範疇ではないものも有りますが、ちゃんとしたものから怪しいものまで、中には半分脅しているようなのまであるので(これ全部「もの売り屋さん」が考え出したもの?)、私たちは皆しっかり意識し、確認しなければなりません。
まぁ、そこへ行くと、絵を描いて一枚いくらかで買っていただく・・・という「もの作り屋」の方が、「気は楽」というものでしょうか「不器用金持ち」とは、不器用な人が、自分で物を作れないから、ものを作れる人が作ったものを商品として売ってあげる代わりに「手数料」を頂くという方法をどんどん発展させて行った形といえるでしょう。(まぁ、ひとつの考え方ですが・・・。)
 そしてそれを、もっと効率の良い売り方は無いかと考えて、1個売るより10個売れば10倍儲かる・・・、というので、じゃぁ職人を10人雇って、1日に10個作らせよう・・・と思うようになるに決まっています。でもその時、もの作り屋さんは、一個作るのに1日掛かれば、相変わらず一日一個分の報酬しかもらえません。相変わらず貧乏です。売る人は10個を100個に、100個を10000個に・・・。そうしてやがて、今日の大商社、大貿易会社に成長し肥大化して行ったのでしょう。
 世の中は広いもので、両方をやってしまったという、両生類みたいな人がいるんですね。 ビルゲイツ!
でも、普通のもの作り屋さんがこういう風になるには、「もの作り」と「もの売り」の二重人格を共存させて、先ず完璧な商品を作って、これを売るときにはすっかりセールスマンに変身して、お客さまに何を言われようと、これを売らなければ「明日のご飯が食べられない」・・・と、自分を追い込む覚悟が必要です。そうでない場合は、相変わらずの「器用貧乏」を決め込むことです。
まぁ、その方が「気は楽」ですし、ケッコー好きなことは出来ます・・・。
(終) ai-Phase 作曲家 河野土洋