緊急病棟とマントバーニ

 50年来の友人が具合が悪くなり掛かりつけの某大病院の緊急外来へ付き添っていった時のこと.大事に至らなかったので安堵したためか,待合室に小さな音量で曲がながれていることに気がついた.普段はまったく気に止めることもない.これがマントバーニオーケストラのワイオミングという曲で,50年ぐらい前の録音だ.こんな古いものが使われてことに驚かされたが,静かな穏やかさが病院にマッチしていると思った.
 マントバーニといえば今から50-60年前に全盛を誇ったイージリスニングの大御所.私が最初に聴いたのは,万世橋にあった交通博物館.小学生のころ毎週の様に通っていた.入口すぐの左手にガラス窓で仕切られた模型電車の大がかりなセットがあって,定時になると,マントバーニのサルスエラマーチが流れてから電車が動き出す.その軽快な音楽はいまでも耳に残る.もっとも曲名を知ったのは10年以上あとのこと.今ひとつの思いでは,道玄坂上の名曲喫茶ライオンでのこと.ここは日に二回 新譜LP紹介をするのだが,その開始の音楽が一番気に入っていた.曲が1分ぐらい流れてから,シューマンの第4シンフォニーなどが紹介されるのだ.店主におそるおそる曲名を聞くと,マントバーニの孤独なバレリーナと教えてくれた.
 弦の柔らかな音色は,気を静める効果がありそうだ.一方でベートーベンのように弦で高揚させる例もある.「セリオーソ」などである.マントーバーニに,ベートーベンは無かったような気がする.気を静めるという意味では,NHKのラジオ深夜便のイントロも同じマントバーニで,「And I love you so」という曲が使われてたような気もする.ロックに馴染んだ耳を50年前に戻すのも悪くないかも.(化石人)